最高裁判所第二小法廷 昭和26年(さ)3号 判決 1952年11月28日
本籍
東京都北区上十条中原町二丁目一四番地
住居
埼玉県比企郡松山町東平二〇二一番地 大久保志津方
無職
野沢七郎治
明治三二年一〇月一〇日生
右の者に対する食糧管理法違反被告事件について昭和二五年四月一九日東京中野簡易裁判所のなした確定の略式命令に対し検事総長佐藤藤佐から非常上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
昭和二五年四月一九日附の略式命令を破棄する。
右略式命令記載の犯罪事実について被告人を免訴する。
理由
検事総長佐藤藤佐の非常上告趣意について、
関係記録を調査すると被告人は法定の除外事由がないのに昭和二四年一一月一三日東上線松山駅近在の農家から同駅に至る間精米一斗五升、押麦八升を携帯輸送したとの犯罪事実について同年一二月二八日東京中野簡易裁判所に対し公訴提起と共に略式命令を請求され昭和二五年一月一〇日同裁判所は右事実について食糧管理法違反として被告人を罰金三千円、右罰金を完納することができないときは金百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する、押収に係る換価代金はこれを歿収するとの略式命令をなしこの裁判は同年二月三日に確定した。ところが右略式命令確定後である同年四月一五日更に法定の除外事由がないのに昭和二四年一一月一三日埼玉県東上線松山駅から東京都内中央線高円寺駅に至る間粳精米二八瓩四〇〇瓦を携帯輸送したとの犯罪事実について同裁判所に公訴の提起と共に略式命令の請求がなされ同裁判所は昭和二五年四月一九日再び食糧管理法違反として被告人を罰金千五百円、換刑処分等は前同様の略式命令をなしこの裁判は同月二九日に確定した事実を認めることができる。そして叙上二個の公訴事実は一見異るようであるが一件記録を精査すればそれは全く同一の事実であることが認められる。さすれば後の起訴を受けた東京中野簡易裁判所は既に同一公訴事実について確定の略式命令があつたのであるから右起訴に係る公訴事実については本来刑訴三三七条一号に則り判決で免訴の言渡をすべきであつたのである。然るに同裁判所において更に略式命令をなした為同一犯罪事実について相前後して二個の略式命令がなされ、それぞれ確定するに至つたわけである。即ち後になされた略式命令は明らかに違法なものであるから本件非常上告は理由がある。
よつて裁判官全員一致の意見で刑訴四五八条一号により昭和二五年四月一九日附の略式命令を破棄し同法三三七条一号に則り免訴の言渡をなすべきものとし主文のとおり判決する。
検察官 平出禾関与
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)